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水曜日・日曜祝日午後

腫瘍

腫瘍を専門的に診る

腫瘍とは、細胞の遺伝子に傷がついてできた異常な細胞が、無秩序かつ過剰に増殖してできたかたまり(できもの・しこり)のことをいいます。
腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)に分けられます。
がんは、周囲組織への浸潤や、多臓器に転移することで、体に様々な悪影響を起こし、最終的には生命に関わる状態に進行していきます。
近年は、寿命が伸びたことにより、人を含め犬、猫の死亡原因のトップはがんといわれています。

当院の特徴

当院には、日本獣医がん学会に認定された、獣医腫瘍科認定医Ⅰ種・Ⅱ種が在籍しており、専門的な知識と技術を持って、腫瘍の診療を行なっています。
獣医腫瘍科認定医Ⅰ種が在籍する動物病院は、三重県では当センターのみのため、腫瘍診療において貴重な存在となっています。(獣医腫瘍科認定医Ⅰ種:2023年5月現在 51人)
また、定期的に米国獣医内科学専門医(腫瘍学)の小林 哲也 先生と勉強会を行い、症例の診断や治療に対する検討やレクチャーにより新たな知識を習得し、日々の診療に活かしています。

日本獣医がん学会

こんな症状はありませんか?

  • からだにしこり(できもの)がある
  • 元気や食欲がない
  • やせてきた
  • 鼻血がでる
  • 嘔吐や下痢がつづく
  • 便が黒い(または赤い)
  • お腹が膨らんできた など

腫瘍の症状は多岐にわたります。ご家族が気づきやすい、からだのしこり(できもの)から、画像の検査をしないと発見できない腫瘍(胸腔内腫瘍・腹腔内腫瘍など)や血液の腫瘍などがあるため、状況に応じた適切な検査が必要となります。
また、進行しないと症状が出てこない場合もありますので、定期的な健康診断をお勧めします。

腫瘍の検査・診断

各種検査を実施し腫瘍を診断します。腫瘍の進行度評価(ステージング)を行い、ご家族と相談の上、治療方針を決定します。

問診、身体検査(視診・触診など)

問診や身体検査から腫瘍疾患の可能性があるか判断し、次に必要な検査を検討したのちに、以下に挙げるような検査を進めていきます。

細胞診検査

病変部(体表部腫瘤や腹腔内・胸腔内腫瘤など)に細い針を刺して細胞を採取し、染色後に顕微鏡を用いて細胞の形態を観察する検査です。
炎症か腫瘍かの鑑別や、細胞形態に特徴がある腫瘍では、細胞診検査で診断可能なものもあります。
骨髄穿刺で得られた骨髄の細胞を評価する際にも細胞診検査を行います。

病理組織検査

細胞診検査で診断が得られない場合に、さらに多くの組織を採取し、病理組織検査(外注検査)にて、腫瘍の診断を行う方法を組織生検といいます。組織生検にはTru-Cut生検、パンチ生検、内視鏡下生検、ジャムシディ生検、切開生検、切除生検などがあります。
手術前の診断目的や手術後の確定診断、悪性度やマージンの評価などを目的として、病理組織検査を実施します。

画像検査

X線検査や超音波検査を実施します。がん症例では進行するとリンパ節や多臓器に転移するため、原発腫瘍の検査目的だけでなく、リンパ節転移や遠隔転移の有無を評価するためにも必要な検査です。
さらに精密な検査が必要な場合には、C T検査を実施します。
(当院ではC T検査の実施が可能です。)
また、食道、胃、十二指腸、大腸などの消化器系の腫瘍(リンパ腫を含む)を疑う場合には、内視鏡検査を実施します。

(C TのM P R画像:巨大な胸腺腫の症例)

血液検査

全身状態の把握や、腫瘍によって引き起こされる腫瘍随伴症候群(貧血、高Ca、低血糖など)が起きていないかを調べるために血液検査を行います。
内分泌の腫瘍(甲状腺・副腎など)では、各種ホルモン検査も実施します。
最近では、腫瘍のスクリーニング検査(腫瘍の早期発見)や治療反応をみる目的で、リキッドバイオプシーという検査も可能となりました(一部のがん種において)。
※リキッドバイオプシー:がん細胞から分泌されるエクソソーム内のマイクロR N Aを解析し、腫瘍を検出する検査です。

その他

腫瘍の種類に応じて、遺伝子検査を行うことがあります。

  • リンパ球クローナリティー検査(リンパ腫)
  • B R A F遺伝子変異検査(尿路上皮がん)
  • c-kit遺伝子変異検査(肥満細胞種、GIST)

腫瘍の治療

腫瘍の治療の3本柱として、外科療法、放射線療法、化学療法があります。
これらの治療を効果的に組み合わせながら治療を行ないます。
近年は、さらに免疫療法を付加して4本柱といわれる場合もあります。

外科療法

外科療法(手術)は、一回の治療において最も腫瘍細胞を減らすことのできる治療です。そのため、外科手術が可能な場合は、腫瘍治療の第一選択肢となります。
外科療法には、根治目的の治療と緩和目的の治療があります。
根治目的の治療:腫瘍の完全切除により、根治を目指す治療となります。
緩和目的の治療:腫瘍の根治が困難な腫瘍に対して、腫瘍の進行を抑制、QOL(生活の質)の改善や維持、疼痛緩和を目的とした治療となります。
当センターでは、他施設(他県含む)にて手術困難とされた症例も多数ご紹介いただき、チーム一丸となって手術を行なっています。セカンドオピニオンも可能ですので、ご相談ください。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーのX線によりDNAにダメージを与え、がん細胞を死滅させる治療法です。放射線治療は外科治療と同じく局所治療に分類されますが、外科治療と比較して低侵襲であることが特徴です。
放射線療法は、一般的に外科手術が困難な腫瘍、外科手術で取りきれなかった腫瘍(またはその可能性がある場合)の術後補助療法、緩和目的(疼痛緩和や生活の質の改善)として行われます。
放射線治療装置には、発生するX線の強さによってメガボルテージ(高電圧)とオルソボルテージ (常電圧)に分けられます。
当センターでは、オルソボルテージ発生装置により、主に緩和目的の治療として放射線療法を行っています。

化学療法

化学療法は抗がん剤の投与により、がん細胞を減らしたり、がんの増殖を抑えたりする治療です。
外科療法や放射線療法は腫瘍の局所に対する治療ですが、化学療法は全身療法となります。
副作用として、骨髄抑制、胃腸障害、脱毛などがあります。特に骨髄抑制と胃腸障害に注意(必要に応じて対策)しながら抗がん剤の投与を行なっています。
また、がん細胞の増殖に関わる因子や栄養を運ぶ血管などに作用する分子標的薬という薬を用いて治療することもあります。

適応

  • リンパ腫などの造血器の腫瘍(血液がん)
  • 外科療法後の転移や再発を抑制する目的
  • 外科療法が困難で化学療法に感受性のある腫瘍 など

※抗がん剤感受性検査(がん細胞を培養して、どの抗がん剤に効果があるかを調べる検査)を必要に応じて実施しながら、より効果的な薬剤を選択し治療を行います。

免疫療法

免疫療法は、からだに備わっている免疫の力により、がん細胞を攻撃する治療法です。リンパ球(T細胞)には、がんを攻撃する力が備わっており、T細胞の活性を高めることや、がん細胞によってT細胞にブレーキがかかることを抑えることにより治療効果を発揮します。
従来より行われている免疫療法には、活性化リンパ球療法(CAT)、樹状細胞療法(DCワクチン)などがあります。
近年、治療効果が高いと考えられている免疫療法として、免疫チェックポイント阻害薬というものがあります。現在は研究段階ですが、PD-1阻害薬、PD-L1阻害薬などがあり、犬の悪性黒色腫(メラノーマ)などに効果があるとされています。
また、2024年度より、犬のメラノーマの治療薬として、がんワクチン(オンセプト®︎)が一部の施設において使用可能となりました。当センターは、本薬剤を使用することが可能な施設となっています。

疼痛緩和

がんに罹患した動物は、疼痛によりQOL(生活の質)が低下してしまいます。少しでも動物の苦痛を取り除くため、治療に並行して適切な緩和ケアを行います。
軽度の疼痛に関しては、一般的な消炎鎮痛剤であるNSAIDsを使用します。消炎鎮痛剤のみではコントロール出来ない強い疼痛の場合は、麻薬性鎮痛薬(オピオイド)のフェンタニルなどを使用して、動物の痛みを和らげ、QOLの向上を目指します。