鼻腔内腫瘍は、鼻の中の組織から発生し、ほとんどが悪性で、進行性の経過をたどります。犬では、鼻腔腺癌の発生が最も多く、その他、移行上皮癌、扁平上皮癌、軟骨肉腫、線維肉腫などの発生が認められます。一方、猫ではリンパ腫の発生が最も多く、その次に鼻腔腺癌の発生が多いです。症状として鼻汁やくしゃみ、鼻出血などが認められます。高齢でシェルティーなどの長頭種に発生しやすいとされています。
腫瘍の性質として、一般的に局所浸潤性が強く、遠隔転移率は低いです。そのため、死因は局所の悪化に起因することが多いため、局所治療が重要となります。
当院ではCT検査、超音波乳化吸引装置を駆使し、腫瘍の局所制御を行うことで、QOLの維持と生存期間の延長を目的とした治療を行っています。
下の写真は、ラブラドール・レトリバー(7歳5ヶ月齢)に発生した鼻腔腺癌の症例で、当院で治療し、5年以上生存した症例です。
鼻汁、くしゃみ、鼻出血、鼻出血、いびき、鼻づまり(呼吸がしづらい)などの症状がみられます。 進行症例では、顔の形が変わったり、発作を起こす場合もあります。 |
臨床症状から、鼻腔腫瘍を疑った場合は、まずレントゲンを撮影して鼻腔腫瘍の可能性を判断します。 さらに精密な検査としては、CT検査を実施します。鼻腔内に腫瘍を疑う病変があれば組織を採材し、病理組織学的検査を行います。 また、CT検査により、腫瘍がどこまで進行しているかを確認することができます。 |
鼻腔内の悪性腫瘍は、根治することは非常に難しいです。 治療法として、放射線療法(外科手術を併用する場合もあり)が推奨されていますが、治療可能な場所には限りがあります。 当院では、腫瘍の局所制御として、超音波乳化吸引装置を用いて腫瘍を吸引し、腫瘍残存部に抗癌剤を直接塗布する治療を行っています。 腫瘍細胞をゼロにすることは困難なため、複数回の治療が必要になります。治療間隔としては、最初は1ヶ月に1回行い、状態をみながら治療間隔を開けていきます。 また補助的な治療として、抗癌剤(分子標的薬含む)や免疫療法などの内科的治療を行います。 |
写真は、ラブラドール・レトリバー(7歳5ヶ月齢)に発生した鼻腔腺癌の症例で、当院で治療し、5年以上生存した症例です。超音波乳化吸引装置を用いた治療を行っている写真です。
CT検査で、腫瘍の位置を確認した後に、腫瘍を吸引する範囲をマーキングし、鼻腔内から腫瘍を吸引しているところです。 |
犬に発生する腫瘍で2番目に多く、雌ではもっとも多い腫瘍で乳腺組織より発生します。犬では約50%が悪性といわれ、さらに悪性のうちの50%は転移性が高いといわれています。若齢で避妊手術を受けた場合は発生率が低く、未避妊の高齢犬ほど発生率が高いことから卵巣ホルモンの関与が考えられています。避妊時期と乳腺腫瘍発生率を調べた報告では、初回発情前に避妊手術を行った場合、乳腺腫瘍の発生率は、0.05%、初回から2回目の発情前では、8%、それ以降では26%といわれています。
乳腺に硬いしこりが1個~複数個認められます。腫瘍が小さいうちは、痛みはほとんどありませんが、自壊した場合は、舐めて感染したり、痛みを訴えることがあります。 |
触診後、病変部を針生検して診断します。 悪性腫瘍が疑われる場合は、レントゲン検査や超音波検査などで転移を疑う病変がないかを検査し、ステージングを行います。 |
外科治療により根治する可能性がある腫瘍です。切除範囲は腫瘍の大きさや数、発生した場所などにより決定します。同時に子宮卵巣摘出(避妊手術)を実施することが多いです。切除後の病理検査結果によっては抗癌剤や免疫療法などの内科的治療を行うこともあります。 若齢(2回目の発情以前)での避妊手術が乳腺腫瘍発生の予防になります。 *犬では時に炎症性乳がんと呼ばれる悪性度の高い乳癌が発生することがあります。乳腺とその周囲の皮膚の紅斑、熱感や疼痛が認められます。炎症性乳がんは、一般的に外科切除は禁忌で抗癌剤の投与や疼痛緩和目的で放射線治療などを行いますが非常に予後の悪い癌です。 |
猫では皮膚腫瘍の中で3番目に発生が多く、犬とは異なり、約80~90%が悪性とされています。そのため小さな腫瘍でも注意が必要です。猫でも若齢での避妊手術により乳腺腫瘍の発生率を低くすることができると報告されています。
乳房やその周囲に1個~複数個の硬いしこりを触ることができます。また、腫瘍の一部が赤く腫れたり、黄色の液体がにじみ出ていることもあります。ときに表面がジュクジュクとして出血することもあります。 |
犬と同様に触診、針生検をおこないます。 またレントゲン検査や超音波検査を行い、転移がないかを検査します。 |
治療の第1選択肢は外科切除です。犬と違い猫では、腫瘤が小さくても腫瘍ができた側のの乳腺をすべて切除します(再発率を下げるため)。同時に卵巣子宮摘出術も行います。手術後の病理検査結果によって、抗癌剤の投与を行います。 |
犬の皮膚腫瘍の中で7~21%を占め最も多い腫瘍です。「偉大なる詐欺師」とも呼ばれ、多種多様な形態をとる悪性腫瘍であり、警戒すべき皮膚の悪性腫瘍です。肥満細胞腫の多くは皮膚に孤立性の腫瘤を形成しますが、約10%の症例は多発するといわれています。肥満細胞腫はその細胞質にヒスタミンやヘパリンなどの顆粒を持っていて、これらの顆粒が放出(脱顆粒)することで、掻痒、腫瘍周囲の紅斑や腫脹、出血がとまりにくいなどといった臨床症状(ダリエ徴候)を引き起こします。肥満細胞腫はすべて悪性腫瘍ですが、高悪性度のものは、肝臓や脾臓などの全身に早期に広がり、命に関わるため早期の診断・治療が必要になります。
典型的なものでは腫瘍の紅斑や腫脹、患部の掻痒などがみられます。 肥満細胞から出るヒスタミンによって消化管潰瘍が起こり、嘔吐や食欲不振、メレナ(黒色便)といった症状がみられることがあります。 また、重症の場合ショックを起こして亡くなってしまうこともあります。 |
様々な形態をとるため、外観や身体検査のみでは他疾患との鑑別は困難です。 病変部の針生検を行い、細胞診検査を行います。細胞診での診断率は90%以上といわれています。 組織学的評価を行うため、術前に組織生検を行うこともありますが、出血に注意する必要があり、必ずしも実施はしていません。 また、肥満細胞腫が疑われた場合は、リンパ節の細胞診、超音波検査、X線検査などを実施し、ステージングを行います。 c-KIT変異(遺伝子検査)が認められれば、分子標的薬が奏効することが分かっているため、必要に応じて遺伝子検査も実施します。 |
切除可能な病変であれば、外科手術が第一選択となります。外科手術では、他の腫瘍の切除と比較して十分なサージカルマージンを取る必要があります。 一回目の手術が根治できる最大のチャンスであるため、外科手術の前にプレアジュバンド療法として、抗がん剤、分子標的薬やステロイドを投与し、腫瘍を少しでも縮小させてから手術を行うことで、術後の再発率を下げています。 術後は、病理検査結果(完全切除の有無、組織学的グレードなど)によって、抗癌剤(もしくは分子標的薬)などの内科的治療を行います。 |
猫の肥満細胞腫は発生部位によって、皮膚型、脾臓/内蔵型、腸管型に分類され、生物学的挙動はそれぞれで異なります。猫の皮膚型肥満細胞腫は皮膚腫瘍の約20%を占め、2番目に多い悪性腫瘍です。皮膚型肥満細胞腫は、細胞の形態によって肥満細胞型と組織球型に分類されます。犬の皮膚肥満細胞腫と比較して良性の挙動をとることが多いですが、皮膚に多発するものや核分裂指数が高いものは、悪性の傾向にあるため予後に注意する必要があります。内蔵型肥満細胞腫は犬に比べてよく認められ、特に脾臓に発生することが多いです。腸管型肥満細胞腫の発生は、他のタイプと比較してまれですが、猫の消化管に発生する腫瘍として、リンパ腫、腺癌に次いで多いです。予後は一般的に悪いとされています。
皮膚型肥満細胞腫では、腫瘍細胞の脱顆粒に伴う、掻痒、紅斑、腫脹などがみられます。 その他のタイプの肥満細胞腫では、食欲不振や体重減少、嘔吐、下痢などがみられます。 |
病変部の針生検を行い、細胞診検査をします。 肥満細胞腫が疑われる場合は、進行度の評価を行うために、リンパ節の評価、超音波検査(特に肝臓・脾臓)、X線検査の他、バフィーコートに肥満細胞がないかを確認します。 皮膚型肥満細胞腫と思われる場合も、多発している場合は内蔵型肥満細胞腫の転移の可能性があるので、全身の評価が必要です。 |
一般的な猫の皮膚型肥満細胞腫の場合、良性の挙動を取る場合が多いので、犬の皮膚肥満細胞腫に比べて、少ない外科マージンでの切除により根治することが可能です。一部、局所再発や転移を起こす悪いものも存在しますが、その挙動を正確に予測することは難しいとされています。 脾臓型肥満細胞腫は脾臓摘出により、臨床症状や予後の改善が期待されます。腸管型肥満細胞腫は一般的に予後が悪いとされていますが、明らかな転移性の病変がない場合は、外科治療が推奨されます。 外科治療後も病理検査の結果や進行度に応じて、抗がん剤などの治療が必要になる場合があります。 また、外科治療が困難な場合は、放射線療法、抗がん剤(分子標的薬)、ステロイドなどにより治療を行います。 |
歯肉や舌、口の粘膜などに出来る腫瘍です。犬の口腔内腫瘍は腫瘍の約4%を占めますが、その約90%は悪性腫瘍で、悪性メラノーマ(黒色腫)、扁平上皮癌、繊維肉腫の順に多いとされています。遺伝性、口腔内の不衛生なども原因の一つと考えられています。
口腔内に何かしこりを発見したり、出血が止まらないなどで発見されることが多いです。
多くの口腔内腫瘍の場合、来院時にすでに顎骨に浸潤していることが多いですが、顎骨を含めた切除術を行うことによって治療も可能です。
口臭やよだれ、口からの出血が認められる事が多いです。 また偶発的に口の中を見たときにしこりに気づくこともあります。 |
腫瘍を針生検し細胞診断を行ったり、麻酔下で組織生検をし病理組織学的検査を行う事が診断する上で重要です。またCT検査を行い、手術の範囲を判断することができます。 |
第一に根治を目的とした外科的治療を行います。部位や病期の進行により手術が不適応になる場合もあります。手術後や手術が適応できなかった場合は抗癌剤や免疫療法を行います。 |
高齢の未去勢犬に多く見られる腫瘍で、雄犬では3番目に多く、肛門周囲にある肛門周囲腺という分泌腺に発生する腫瘍です。
この腫瘍はホルモン依存性の高い腫瘍で、多発することも多いとされています。
通常は腫瘍の切除と去勢手術を同時に実施します。
肛門付近で硬いしこりができます。それを気にして舐めて、血が出たり、ジュクジュクしたりしていることもあります。さらに腫瘍が大きくなると排便がしづらくなり、何度も排便のポーズをとるようになることもあります。 |
腫瘍を触診、針生検を行い診断します。 |
外科的に切除します。しかし、肛門付近のため拡大切除が難しく、増殖しやすい細胞なので再発することも多く、手術後も注意が必要です。同時に去勢手術も行うと腫瘍が新たに出現することを予防することが出来ます。 若いうちに去勢手術をしておくことが有効な予防法です。 |
精巣は男性ホルモンを分泌したり、精子を作ったりする雄の臓器です。
犬の精巣腫瘍は未去勢の犬であれば2番目に多く遭遇する腫瘍です。転移率は低いですが、腫瘍が産生した過剰なホルモンによって、雌性化、脱毛などが見られたり、最悪の場合骨髄抑制を起こして死に至ることもあります。
また陰こう(潜在精巣)といって、胎児期の精巣がお腹の中に残っている場合は、正常な犬と比べて9倍、腫瘍発生のリスクが高いとされており、発見も遅れやすいことから、予防的に早期に去勢することが望ましいとされています。
腫瘍細胞の増殖によって精巣が腫れ上がっていることがあります。痛みはほとんどありません。 腫瘍部位からのホルモン分泌で毛が抜けたり、皮膚が黒ずんだりする(色素沈着)ことがあります。また乳頭が大きくなったり(雌性化)、反対側の腫瘍が小さくなったりすることがあります。 |
病変部の針生検を行い、細胞診断を行います。お腹の中にある場合、超音波検査、CT検査などが有用な検査となります。 |
外科的治療により根治する可能性があるため、基本的には手術を行います。手術後は抗癌剤や免疫療法を行うこともあります。しかしホルモンの作用で免疫抑制や貧血が起こってしまっている場合は手術が出来ず死に至ることもあります。 |
脾臓の腫瘍は比較的多く、高齢の大型犬で多く見られますが、どの犬種でも認められる腫瘍です。脾臓にできたしこりのうち2/3が腫瘍で、1/3が非腫瘍性病変であるといわれ、腫瘍のさらに2/3は悪性度の高い腫瘍(血管肉腫)といわれています。
脾臓の腫瘍の場合、お腹が大きくなってきたことで来院されるか、元気な子が急に動けなくなったりして、検査を行うと貧血や腹水などと同時に発見される場合が多いとされています。また他の病気で来院され偶発的に見つかることもあります。
腹水(出血による血腹)がある場合は緊急手術を行うことが多いです。
腫瘍に特異的な症状はほとんどなく、お腹が膨らんできた、元気だったのに突然元気がなくなったなどの禀告で来院されることが多いです。腫瘍が破裂すると、お腹に血が大量に溜まったり、低血圧や貧血を起こすことによってぐったりすることがあります。 |
血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT検査などで総合的に診断します。これらの検査で異常が見つかった場合は手術により摘出し、病理診断することによって確定診断されます。 |
脾臓破裂を起こしいる場合は緊急手術になる場合があります。状況に応じて輸血を行いながらの手術になります。 脾臓摘出後の病理検査結果に応じて、抗癌剤療法や免疫療法を行います。 |
腎臓腫瘍は犬では腫瘍の1.7%、猫では2.5%とされています。持続的な血尿やお腹の中のしこり、腫れなどから発見されます。手術においても大血管に隣接しているため、難易度の高いものとなります。
血尿が見られることが多いです。その他にも元気の消失、体重の減少、腹囲膨満などが挙げられますが、腫瘍に特異的な症状ではありません。 |
尿検査、超音波検査、CT検査、生検などを総合して診断します。排泄性尿路造影を行い、正常側の腎臓の評価を行い、手術の適応か否かを判断したりもします。 |
外科的に摘出することで根治する可能性のある腫瘍です。この場合、手術前後の腎機能の管理がとても重要で、正常側の腎機能不全が起こっている場合は特に注意が必要です。手術が適応できなかった場合は抗癌剤や、免疫療法などの内科的治療を行います。 |
副腎とは左右の腎臓の上に隣接している臓器のことで、小さな臓器ですが身体の代謝をコントロールするホルモンを分泌している重要な臓器です。
副腎腫瘍は、多飲多尿や脱毛などホルモンの異常から精密検査を受けて発見される場合が多いとされています。
手術は副腎という臓器が大きな血管に隣接している関係から非常に難易度が高く、手術前にはCT検査を実施し、手術を行う場所と術式を決定する必要があります。
多くの症状は副腎皮質ホルモンの分泌過剰によってあらわれます。お腹がポッコリして太ってきた、水をたくさん飲んでおしっこの量も多い、背中に左右対称に現れる脱毛などが特徴です。その他にも元気がない、皮膚が薄くて、表面が黒ずんでいるなどの症状もみられます。 |
血液検査によるホルモンの値の測定、レントゲン検査、超音波検査、CT検査などを総合して診断します。 |
外科的に摘出することで根治する可能性がある腫瘍です。手術前後は入院もしくは通院にて、血中ホルモン濃度をコントロールする必要があります。 |
喉にある甲状腺という臓器が腫瘍化したもので、腫瘍が大きくなると喉が腫れてきます。犬に多く、その約90%は悪性です。ビーグル、ゴールデンレトリーバーに発症しやすい腫瘍で、喉のしこりで来院されるケースが多いです。
腫瘍には浸潤型と非浸潤型があり、非浸潤型の場合は手術によって完全に切除できる可能性があります。大きくなるほど予後が悪いため、早期に発見し、切除することが治療の最良の方法です。
喉にしこりが見つかったり、呼吸がしづらかったり、食事を飲み込みづらかったりすることにより気づきます。 |
病変部の針生検を行い細胞診断で診断します。またCT検査が有用な検査となります。 |
治療には外科的切除が有効です。甲状腺ホルモン検査を行い、ホルモン値が高い症例は手術前に抗甲状腺薬(チアマゾール)の内服を行います。 |
肝臓腫瘍は、原発性肝臓腫瘍と転移性肝臓腫瘍の二つに大別されます。転移性肝臓腫瘍の方が発生が多いとされ、原発性肝臓腫瘍の発生はまれといわれています。転移性肝臓腫瘍は、悪性腫瘍であり、一般的に予後は不良です。
原発性の肝胆道系腫瘍は、肝細胞由来(肝細胞癌)、胆管由来(胆管癌)、神経内分泌由来(カルチノイド)、間葉系由来(血管肉腫など)に分類されます。発生は、肝細胞癌が最も多く、次いで胆管癌と言われています。
現在では、レントゲン・超音波検査などの他にCT検査に血管造影検査を組み合わせることで、術前に腫瘍の大きさや場所、血管走行などが確認できるようになり、診断精度が上がっています。さらにソノペットという超音波吸引装置を駆使し、以前は切除できなかったような難易度の高い肝臓腫瘍の切除も可能になりました。
初期ではほとんど症状がありません。なんとなく元気がない、食欲がない、体重減少などの非特異的な症状が認められます。病気が進行すると吐いたり、下痢をしたり、黄疸がみられたりすることもあります。 また、腹水により腹囲膨満を示していることがあります。 転移性腫瘍の場合は、原発の腫瘍の症状が認められる事があります。(膵臓腫瘍の転移で低血糖など) |
肝臓腫瘍は転移性であることが多いため、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT検査などを総合して診断していきます。 特にCT検査は、発生部位、重要な血管との位置関係、転移の有無などを把握するために非常に重要となります。 肝臓の針生検を行い細胞診検査を行う場合もあります。 |
手術可能な腫瘍に関しては、外科切除が第一選択となります。特に肝細胞癌で塊状型の場合は、手術により生存期間を有意に延長することができます。 結節型や浸潤型では、手術適応外になることもありますが、腫瘍の破裂等で生命の危機にある場合は、対称的な手術を行うこともあります。 腫瘍が肝臓全域に及ぶ場合などは手術が適応でない場合があります。その場合は、内科的治療として抗癌剤(分子標的薬)や免疫療法を行います。 |
腹部正中切開と傍肋骨切開により術野を確保しました。
腫瘍は外側左葉基部に存在しており、手術の難易度は高かった症例です。 血管を超音波手術器(CUSA)で露出させ、結紮やヘモクリップを用いて血管の処理を行いました。 画像は、超音波手術器で血管を露出しているところです。 |
犬の原発性肺腫瘍の発生は稀で、猫での発生は非常に稀と言われています。通常、肺に複数の結節が認められた場合は、転移性肺腫瘍の可能性を考えます。犬の原発性肺腫瘍の多くは孤立性の結節として認められ、高齢(平均10歳齢)で発生し、性差は認められていません。犬の原発性肺腫瘍で最も多いのは、肺腺癌でその他、気管支肺胞腺癌や扁平上皮癌などの発生が認められます。また、腫瘍随伴症候群として、肥大性骨症を発症することがあり、四肢の跛行や疼痛が認められることがあります。
初期は無症状であることが多いです。 通常は慢性的な咳、呼吸が荒い、呼吸困難などの症状で来院されることが多いです。その他に食欲不振や体重の減少などが挙げられますが、どれも腫瘍に特異的な症状ではありません。 |
初期では、無症状のことも多く、X線検査にて偶発的に診断されることもあります。肺に結節(腫瘤)が認められた場合、全身精査を行い、転移性肺腫瘍なのか原発性肺腫瘍なのかを鑑別します。CT検査を行い、原発巣は手術可能であるか、リンパ節転移の有無やその他の肺葉への転移の有無などを確認します。腫瘤が胸壁に接している場合は、超音波ガイド下で細胞診を実施します。また、胸水が貯留している場合は、胸水中に腫瘍細胞が存在しているかを確認します(腫瘍細胞がなくても腫瘍の否定は出来ません)。 |
犬猫共に、孤立性の肺腫瘤であれば、外科的治療が第一選択肢となります。外科的治療では、肋間開胸もしくは、胸骨正中切開にてアプローチし腫瘍を含めた肺葉切除を実施します。放射線療法や化学療法単独での治療は、大規模な臨床研究が行われておらず、十分な効果が得られない可能性が高いとされています。術後の補助的化学療法として、経験的に白金製剤等を使用しています。 負の予後因子は、腫瘍のサイズ(>5cm)、リンパ節転移あり、組織学的悪性度(未分化)などが挙げられます。 |
鼻の中にできる腫瘍で、発生した場合はほとんどが悪性で、進行するほど予後が悪くなります。症状として鼻汁やくしゃみ、鼻出血などが認められます。高齢でシェルティーなどの長頭種に発生しやすいとされています。
一般的に転移率は低く、局所の悪化により死亡するため、局所治療が重要となります。根治は難しい腫瘍ですが、
当院ではCT検査、超音波乳化吸引装置を駆使し、腫瘍の局所制御を行うことで、QOLの維持と生存期間の延長を目的とした治療を行っています。
鼻づまり、鼻血、いびき、くしゃみ、呼吸がしづらいなどの症状がみられます。ひどくなると、顔の形が変わったり、顔面麻痺になることもあります。 |
鼻の中に管を入れて吸引し、採取した細胞をもとに病理組織学的検査を行います。CT検査が有用で、腫瘍が鼻のどのくらい広がっているのかがわかります。 |
鼻腔内に悪性腫瘍が出来た場合、根治することは非常に難しいです。 超音波乳化吸引装置を用いて腫瘍細胞の減数を行い、抗癌剤を直接腫瘍に塗布します。それ以外に、抗癌剤や免疫療法などの内科的治療を行います。 |
腸の腫瘍は発生部位によって症状が異なる場合があります。例えば、嘔吐は十二指腸や上部消化管の腫瘍に関連していることが多く、体重減少や下痢は小腸の腫瘍でみられ、血便は直腸の腫瘍でよくおこります。外科手術(腸切除)や化学療法(リンパ腫など)を行い治療します。
腸のリンパ腫は悪性度の高いものが多いのですが、若齢のミニチュアダックスに見られる消化器型リンパ腫は他のリンパ腫と比較して抗がん剤によく反応し、長期生存をすることもあります。
上部消化管〜小腸にかけて腫瘍が出来た場合は嘔吐や下痢がみられます。食欲がなくなったり、体重が減少することもあります。直腸にできた場合は血便が多くみられます。 腫瘍によって腸が閉塞した場合、食べ物が腸を通過できなくなるため、嘔吐が激しくなり、ぐったりとします。 |
病変部の針生検をし、細胞診断を行います。また内視鏡検査により病変部の組織を採取して細胞診断を行うことでより正確な診断を下すことができます。CT検査や内視鏡検査にて外科的治療の適応や手術範囲を判断したりもします。 |
腫瘍の発生部位や種類によって治療法が変わります。外科的治療を行うものもあれば、抗癌剤や免疫療法などの内科的治療を行うものもあります。消化管が腫瘍によって閉塞してしまった場合や腫瘍が自潰した場合には緊急手術となる事もあります。リンパ腫の場合は抗癌剤での治療を行うことが多いです。 |
ダックスフントに多いとされる直腸腫瘍は、治療への反応が乏しい持続的な血便を伴うものや便の変形を伴うものが多いとされています。増殖性の強い癌を発症するのが代表的なケースです。またこのタイプの癌はリンパ節、肝臓、肺に転移する可能性が高いです。
直腸腫瘍の場合、直腸の粘膜までの癌であれば、直腸粘膜引き抜き術(粘膜プルスルー)という手術法で治療することができます。
排便がしづらく何度も排便のポーズをして落ち着かないことが多く、排便時に血が混じったり、便が扁平になることがあります。 |
直腸の触診、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT検査、内視鏡検査などを行い、総合的に診断していきます。内視鏡検査にて組織生検し、病理検査を行うことは有用な検査です。 |
根治と臨床症状の改善を目的として外科的治療を行います。発生した部位や病期の進行などによって手術方法が変わります。外科的治療に、抗癌剤や放射線療法などを組み合わせて行うこともあります。 |
胃の腫瘍は慢性的な嘔吐(吐血も含む)、体重減少、食欲不振、黒色便などを主訴に来院され発見されます。最終的には、内視鏡下で潰瘍病変、腫瘍を生検して診断を確定させます。胃の幽門部に発生した腫瘍では、胃の一部を切除後に十二指腸とバイパスされる手術が行われます。難易度の高い手術です。
食べたものをそのまま吐いてしまったり、慢性的な嘔吐が認められます。他に体重の減少や食欲不振がなどがあります。 |
血液検査、レントゲン検査、超音波検査、内視鏡検査、CT検査を総合して診断します。特に、内視鏡下で組織生検を行うことが直接的な診断に繋がります。 |
リンパ腫の場合、抗癌剤の治療を行います。それ以外の腫瘍では可能であれば外科的切除を行います。病理検査結果によっては、術後抗癌剤や免疫療法などの内科的治療を行います。 |
膀胱腫瘍は尿路系の腫瘍の中で最も多く見られる腫瘍で、オスよりもメスに多く、高齢で発生します。犬では尿道の入口近くの膀胱三角という部分に発生しやすいとされています。
膀胱にできる腫瘍はそのほとんどが悪性です。症状が頻尿や血尿といった膀胱炎症状と同様のため、症状が続く場合は超音波検査をお勧めします。
治療は、外科手術、内科療法などがありますが、多くは緩和治療となります。
血尿をしたり、何度も排尿したりする様子が見られます。膀胱炎の症状と一致するため、膀胱炎がなかなか治らない場合などは検査が必要です。 |
尿を採取し、細胞診断を行います。超音波検査、造影レントゲン検査、CT検査も診断上で重要な検査手がかりとなります。 |
可能な場合は外科的切除を行います。適応とならない場合は抗癌剤、免疫療法などの内科的治療を行います。 |
避妊手術をしていない中~高齢の犬、猫で発生します。症状が特に無く、健康診断で偶発的に見つかることもあります。脱毛を主訴として来院され、それが腫瘍によるホルモン失調が原因となっている場合もあります。
卵巣腫瘍の中には卵巣腺癌や顆粒膜細胞腫という大きくなりすぎて破裂してしまい、腹腔内で出血を伴うものもあります。また、腫瘍は腹腔内に転移しやすいといわれています。
主に異常発情や不規則な性周期が挙げられます。他にお腹が膨らんできた、元気がない、食欲がないなどの症状もみられます。ホルモンの過剰分泌によって、脱毛や貧血が見られることもあります。腫瘍が破裂するとお腹の中で出血し、ぐったりします。 |
腹部の触診、血液検査、ホルモン検査、レントゲン検査、超音波検査、CT検査などを総合して診断します。 |
手術で腫瘍摘出術を行うことで根治する可能性のある腫瘍です。 術後の病理検査結果によっては抗癌剤や免疫療法を行います。 |
骨の腫瘍でもっとも多い腫瘍は骨肉腫であり、大型犬の四肢にできることが多いです。
発見時に多くは顕微鏡レベルでの転移を起こしているといわれ、手術と抗癌剤での治療が推奨されます。
また関節周囲に発生した腫瘍が骨に浸潤するような症例でも断脚術などの手術が必要になる場合があります。
その他の部位に腫瘍が発生した場合、以前は手術自体ができない例がありましたが、最近では超音波吸引器を使用し、ほとんどの腫瘍を吸い取り、その後に抗癌剤を併用し、効果を出しています。
また、脊椎などに発生した腫瘍に関しては、手術が不適応の場合がほとんどですが、骨の吸収を阻害するビフォスフォネートという薬や抗癌剤を使用して治療しています。
足に激しい痛みがあり、足を引きずったり、患部が腫れたりします。 |
病変部位の針生検やコア生検を行い診断します。レントゲン検査やCT検査といった画像診断はとても有効な検査です。 |
四肢に発生した骨肉腫の場合は転移性の強い悪性腫瘍なので、早めに外科的治療を行います。術後には抗癌剤や免疫療法などの内科的治療を行うことが多いです。 |
骨肉腫は原始骨細胞起源の悪性腫瘍です。
骨肉腫は局所浸潤性が強く、骨融解や骨産生、軟部組織の腫脹を起こし、病的骨折も起こす。
骨肉腫は四肢の骨および体幹の骨の両方に発生する。
跛行、初期には非ステロイド系抗炎症薬に反応する。 走った時に急に跛行を示す。 硬く腫脹した足。 食欲不振や倦怠感。 |
身体検査 患肢に硬い腫脹を認める。 レントゲン検査 骨幹端骨の細かな海綿骨ディテールの融解による喪失・皮質骨の断絶、骨膜における新生骨(コッドマンの三角)、骨軸に垂直な柵状石灰化などの異常を認めることがある。 骨の生検 ジャムシディ針(骨生検針)を用いた生検、針を用いた細胞診などにより診断する。 |
手術 原発性腫瘍による痛みを軽減する最良の方法であると広く知られている。 放射線療法 疼痛に対する緩和的治療である。 化学療法 シスプラチンまたはカルボプラチンを単独もしくはドキソルビシンを併用することで生存期間が有意に延長することが示されている。 ビスホスホネート この薬剤は転移および原発性腫瘍による疼痛を緩和し、QOL(生活の質)を改善し、そして骨病変進行を遅延させることが示されている。 |
胸腺は、胸骨の裏側、心臓の頭側(前縦隔)にあり、Tリンパ球と呼ばれる白血球を作っている臓器です。幼少期においては体の免疫を担う重要な働きをしています。胸腺は、成長するに従って徐々に小さくなていき、成年期になると退化して脂肪組織となり、働きを終えます。
胸腺腫は高齢の犬、猫に起こる非常に稀な腫瘍です。心臓の頭側に腫瘤を形成し、通常増殖は緩徐であり、症状が出た時にはかなり大きくなっていることもあります。
犬猫いずれにおいても品種、性による好発性はしられていません。
特徴的なものには、呼吸困難(咳、呼吸が荒いなど)、吐出(食べたものをそのまま吐く)などがあります。 |
身体検査(特に聴診)で呼吸の状態を確認します。 レントゲン検査では心臓の頭側に白い影となって描出されます。 その他、超音波検査、細胞診検査、CT検査などで病変内部の詳細や周囲血管の評価や転移の有無を確認します。 |
摘出可能な場合、外科手術が適応になります。場合により根治も可能です。摘出が困難な場合や不完全切除の場合、放射線治療が適応になります。補助的に化学療法(抗癌剤)を行うこともあります。 胸腺腫が悪性かどうかは切除可能かに依存しているため、疑う場合は早めに高度画像診断(CT検査など)を行うことが大切です。 |
全胸部に発生した非常に大きな胸腺腫の手術の写真です。
本症例は、腫瘍が非常に巨大で、周囲組織(肺、心臓、胸膜)に癒着し、一部、大静脈内にも浸潤していました。 周囲血管、神経などに注意しながら慎重に摘出しました。 前大静脈に浸潤した腫瘍も血管をクランプ(一時的に遮断)することで摘出しました。 |