循環器専門診療

循環器を専門的に診る
近年、ペットは家族の中でかけがえのない存在となり、たくさんの愛情を受けて暮らしています。ご家族の愛情によって、ペットは健康寿命が延伸し長い期間ご家族に貴重な影響を与えてくれています。
一方、平均寿命が伸びたことにより高齢になってから罹りやすい心臓病を患ってしまうペットも増えています。心臓病は病気の種類や重症度が様々で、検査や治療には高度で専門的な知識が必要になります。当センターには動物循環器認定医が常勤し、様々な機器を使って心臓病に対する専門医療を受けていただける体制を整えています。
こんな症状はありませんか?
ワンちゃんの場合
- よく咳をする
- 呼吸が速い
- 疲れやすい、いつも寝てばかり、あまり動きたがらない
- 散歩に出てもすぐに帰りたがる
- 興奮すると舌が紫色になる
- 興奮時に失神する
- お腹が出てきた(腹水)
※心臓病は症状を認めた時には進行している事があります。上記のような症状が無くても定期的な健康診断をお勧めします。
ネコちゃんの場合
- 口を開けて呼吸する
- 呼吸が速い
- 疲れやすい
- いつも登れていたところに登れない
- 興奮時や運動時に失神する
- 後ろ足を引きずっている
※心臓病は症状を認めた時には進行している事があります。
上記のような症状が無くても定期的な健康診断をお勧めします。
循環器検査
問診、身体検査

はじめに、問診と同時に視診、聴診で症例の緊急性を判断します。緊急性がある場合は必要な検査と治療から進めることがあります。その後、ご家族からいつからどのような症状が起きているか伺います。
過去に受けたことがある検査や治療内容も伺います。検査結果や薬の情報などがあれば持参されると診断がスムーズに進みます。
症例の体調にあわせて、各検査(血液検査、心電図検査、血圧測定、心エコー検査など)を進めていきます。
血液検査

心臓病は一般的に高齢になってから発症することが多い疾患です。
そのため、心臓病以外の病気を併発していないか、心臓病に関連した異常がないかを血液検査で調べます。
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全血球計算(CBC)
心臓病には動脈血中の酸素分圧が下がる疾患があります。慢性的な低酸素状態であれば、腎臓から多くの造血ホルモン(エリスロポエチン)が放出され、赤血球増加症が認められます。一方、慢性心不全では貧血が高頻度にみられます。貧血を有する症例はそうでない症例と比較して予後が悪いとの報告があります。
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血中尿素窒素(BUN)
クレアチニン(Cre)心臓病は、腎臓病を併発しやすい関係性にあります。
これは、心臓病により血圧や血流が不安定になると、血液をろ過し不要物を尿として排出する役割を果たしている腎臓のろ過機能に負担が生じ、腎臓病を生じやすくなるためです。
そのため、心臓病の場合、腎臓の数値を合わせてみていく必要があります。 -
電解質
利尿薬の使用は電解質異常を起こしやすいです。電解質異常は不整脈の原因になることがあります。獣医療で最も使われることの多いループ利尿薬はナトリウムとカリウムの排泄作用が強いため、定期的な検査を行い電解質バランスの調整をする必要があります。
心臓バイオマーカー
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ANP、NT-proBNP
ANPは心房筋、NT-proBNPは心室筋に伸展刺激が加わると産生される分泌ホルモンです。ANPが上昇すると左心房に、NT-proBNPが上昇すると左心室に負担がかかっていることが予測されます。血中のANP濃度が高値だった僧帽弁閉鎖不全症の犬は予後が悪いとの報告もあります。
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心筋トロポニンI(cTnI)
心筋トロポニンIは心筋細胞が破壊された時に、心筋細胞内から血中に遊離してくるタンパク質です。半減期が2時間なので、進行中の心筋虚血や心筋炎などの病態把握に有用であるとの報告があります。
心電図検査

不整脈の診断をする検査になります。ワンちゃん、ネコちゃんにも人と同様の不整脈があります。また、重度な心臓病は不整脈を併発する場合があります。
よく認められる不整脈には、洞不全症候群(Sick sinus syndrome:SSS)、房室ブロック(第1度AVB、第2度AVB、第3度AVB、高度AVB)、洞頻脈、心房細動、心室頻拍、心室細動などがあります。
ホルター心電図検査

失神やふらつきを認める症例でホルター心電図検査が有用なことがあります。飼主様にとっていただく動物の行動記録とホルター心電図を照らし合わせ、ご自宅で失神やふらつきを認めた時に不整脈が出ていないかを診断することが出来ます。
専用の服のポケットに小さな器械を背負って24時間心電図を記録します。装着すればご自宅で過ごすことが出来ます。
胸部X線検査
心臓の形、サイズの評価を行います。心拡大の評価には椎体心サイズ(Vertebral Hert Size:VHS)を用いて比較します。犬のVHSの基準範囲は8.5〜10.6vです。呼吸器疾患など心臓病以外の病気の除外診断も行います。心臓病に併発する肺水腫や胸水症などの診断に役立ちます。
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肺水腫
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正常
心エコー検査

心エコー検査は簡便性や非侵襲性といった利点をもち、心臓病の診断や治療において最も重要な検査となっています。循環器疾患の治療は血行動態を評価し血行動態の異常を改善する薬剤の種類と量を選択する必要があります。心臓内の弁や心筋の動きを評価し、血行動態の理解を最も深めることが出来る検査です。左側心尖部四腔断層像:僧帽弁閉鎖不全症でよく認められる異常像です。
治療について

ワンちゃんで最もよく認められる僧帽弁閉鎖不全症(MR)では、基本的に2009年に米国獣医内科学会(ACVIM)によって提唱されたACVIM Consensus Statementsに準じて診断、ステージ分類、治療を行っています。更に、当院は日本獣医循環器学会に所属し最新の知見を積極的に取り入れて、日々の診断・治療を行っています。僧帽弁閉鎖不全症以外の心臓病も学会が提唱するエビデンスに基づいて診断、治療を行っています。
心臓病の治療は個々の血行動態にあわせて行なう必要があります。同じ病名、同じステージでも血行動態の異常やその程度は様々です。最終的には動物循環器認定医が複数の検査結果を総合して判断をします。
心臓病の多くは進行性疾患であり、血行動態は刻々と変化していきます。我々はワンちゃん、ネコちゃんの様子をよく見ているご家族からご自宅での様子を伺いながら、複数の継続検査を重ねて治療薬の種類や用量に調整をかけていきます。